太古の封印 Ⅲ

 

大きな揺れと爆音によって叩き起こされたハットとキミド

 

何が起きたのか分からず二人は急いで寝間着から着替える

 

 

「む…あれはなにかしら」

外に出た二人にまず目に入ったのが遠くに光る赤い何かだった

それは燃え上っているようにも二人には見えた

 

「あの方角は確か…」

そこには都市とも言えるほど大きな町があったはずだ

彼は最悪の事態を想像し、背筋が凍った

 

急いで向かおうとキミドに掴まるが彼女は首を横に振る

 

「言いにくいのだけど…あれ実は一度行った場所にしか飛べないのよねー…」

「肝心な時に不便な技だなそれ」

 

全力で走るものの一向に近づく気がしない

ふと後ろを見るとさっき出たはずの自分の家がそこにはあった

 

進んだはずなのに戻っていた

彼女が飛んでみても結果は同じだった

なら…と彼は思いキミドの肩に再び掴まる

 

「さっきも言ったけど一度い…」

「博士の研究所まで飛んでそこからあの町を目指そう!」

なるほどね!とキミドは指を鳴らす

 

そして彼女が集中すると二人の姿は消えた

 

だが再び同じところに現れた

 

「…あれ?」

「やっぱ駄目ね、影から行けるか試してみるわ」

そういうと彼女は地面に潜って行った

 

しばらくしても彼女からの応答はなくハットは不安に駆られる

 

「ぐ…うぐぐ…はぁ」

あれから色々試したが一向に状況は改善されなかった

とうとう彼は諦めて地面に倒れるように仰向けに寝転がる

 

「ん?…」

空中から何かが近づいてくるのが見えた

それは人…のような姿をしていた

 

「って、うおぉ!?」

それはハットの横を通り地面に激突する

砂埃が晴れるとそこには白い羽が生えた人…が埋まっていた

ハットは戸惑いながらもそれを掘り起こした

 

「やぁハット君、お久しぶりだね♪」

やけに寒そうな白い服に頭に輪っか、そして背中には純白の翼が付いている

その姿はまさしく天使と言ったところだろうか

 

天使はハットを見るや久しぶりというが彼には該当する人物がいなかった

 

「失礼なことを伺うが、あなたは誰ですか?」

「本当に失礼だなぁ…まっ仕方ないか」

その天使は腕を組む、笑っているのか怒っているのか分からないがずっと細目だ

 

ハットは記憶を巡らせる

 

「…」

困ったな…思い出せないぞ

彼がそう悩む中時間は過ぎていく

 

 

「おっと、こんな話をしている場合じゃないな」

天使は何かを思い出したように頭を掻く

ハットもその様子を見て今はこいつと付き合っている暇はないことを思い出す

 

「まぁ天使さん、あんたの事は今度時間がある時にでも考えさせてもらうぜ!」

走り去ろうとすると天使が彼を引き留める

 

そして彼の前に歩み出ると鞘に納められている短剣を切り上げるように引き抜く

すると空間の薄い膜がガラスのように崩れた

 

「これで良し…っと!」

 

天使の態度からハットはまさかと思って目の前に向かって突っ切る

 

しばらく走り後ろの方を見ると家が小さくなるくらいには距離が離れていた

よく見ると天使はハットに向かって手を振っていた

ハットも返すべく手を振った。そして前を向き町を目指す

赤い炎はまだまだ遠かった

 

 

 

「ふぅ…とりあえずこれでいいんだよね?」

人気がなくなったところで天使は空に向かって話しかける

 

 

「…うん、わかった…わかってるってば」

誰かに返答をするように空に向かって話しかけると背中の翼を広げ空に飛び立った

 

 

 

「はぁ…はぁ…ゲホッ」

町に行くために山を登っていたハットは煙の臭いがすることに気が付く

 

「はぁ…まだまだ遠いな…」

「お困りのようだね」

木から下りようとしたその時、空から声がする、それはさっきの天使の声だった

見上げると彼は空を飛んでいた。木の枝に飛び降りるとハットに手を差し出す

 

「…」

彼は黙って手を取る

天使は彼を抱きしめ翼を羽ばたかせ空に飛び出る

 

まず目に入ったものが炎の海と化した町だった

 

「くっ…手遅れだったか…」

歯を食いしばり彼はその光景を見下ろす

天使は町の中心部に炎が広がっていない不自然な空間を見つける

 

「あそこ…誰かいないか?」

ハットがその空間を指さす

よく見るとそこにはいくつかの人影が一人を囲むようにしていた

 

「!!…なぁあそこに落ろしてくれないか!?」

彼はその囲まれている人物がキミドだと気が付いた

天使は了承すると出来る限り高度を低くして彼を放した

 

~少し前…その空間では~

 

 

「…」

キミドはローブの男に囲まれていた

何かを仕掛けるわけでもなくただ立っている姿に恐怖を感じる

 

「…お久しぶりですね、会いたかったですよ…キミド」

彼女の真正面に位置するローブの男が手を差し出しながら近づいてくる

名前を明かしていないのに平然と言い当てられ彼女の頬に汗が通る

 

「あんた…何所で私の名前を知ったのかしら」

手を払いのけると男はその手を見る、それは微かに震えていた

 

「酷いですねぇ…かつての仲間の事、忘れちゃったんですか?」

そう言ったあと彼女の体を上から下までねめまわす

下を、影の部分をじっくりと見た後男は顔を上げる。そして続けて言う

 

「どうやら貴女は僕の知っている彼女とは違うようですね」

「そうそう、分かったらさっさと消えなさい」

しっしっと追い払うように手を振る

 

「でも…そうだとしたら、貴女を変えてしまえばいいだけです」

男は何かをしたのだろうか。そう言いながら近づくも彼女は全く動くことはなかった

それどころか燃え上っているはずの炎の動きすらも止まっていた

 

「ガッ…!?」

キミドは驚愕した、いつの間にか男は目の前まで迫ってきており

更に今彼女は彼に髪を掴みあげられる

 

「さぁ…一緒に行こうじゃないか」

「だ、誰があんたなんかと!」

ローブの中に向かって精一杯睨みつけると、男のもう片方の手が彼女の口の中に入る

 指が喉を位置するところに触れる、そして奥に異物を押し込まれる

 

腕を引き抜き掴んでいた髪を離すとキミドは地面に崩れるように倒れる

 

「さて…そろそろですかね」

彼の退却の合図に他のローブに包まれた者達は頷く

 

「おらあああぁぁぁ!!!」

上空から声がする、その場にいた全員が空を見上げる

その瞬間、銃弾が雨のように鋭く降り注いだ

 

直撃した数名の悲鳴の叫び声が響き渡る

 

「貴方は確かに足止めをしたはずなんですがね…」

ローブの男はハットの銃撃を避けきっていた、そして余裕な表情をする

 

「やっぱりあれはお前の仕業だったか」

ハットは眉間に皺を寄せながらため息をつき、リロードする

 

「さて…何でこんな事をした」

銃口を向ける。今度こそは逃すまいと声に凄みがかかっている

そんなハットを見て彼は笑う

 

「自身の正義の為…と言ったところですかね?」

 

バァン!と銃声が静かな空間に響く

 

ハットは手を震わせ銃を地面に落としてしまう

さっきまであいつが居たところにはもう何もなかった

 

 

ガサ…ガサ…

 

さっきまで倒れていたローブの者達は一斉にゆっくりと立ち上がった

そしてぶつぶつと何かを唱え始める

 

「この過酷なる世界に…救いを」

気が付くとハットの真下に白い魔法陣のようなものが現れ光始める

 

「あいつといいあんたらはカルト教徒かなんかか?」

 

その言葉にピクっと彼らは反応しハットの地面から炎の柱が噴き出す

 

やがて炎が収まる、そしてそこにはハットの姿は無かった

そしてローブの者達はそこを囲むようにして手を合わせ祈る

 

「まだ死んでねーよ」

彼らは声のする方に注目する

そこには少し焦げたコートを着たハットが立っている

驚きながらもまた奇妙な詠唱を始める

 

ハットは銃を拾い一人を撃つ。

被弾し倒れた仲間を見て他のローブの者達はフワッと浮いて飛び去ろうとする

だがハットは一人、一人と撃ち抜いていく。バタバタと地面に彼らの体は落ちていく

 

そしてとうとう最後の一人を撃ち抜いた

 

「さて、あいつについて洗いざらい話して貰お…っ!?」

ハットはローブをめくるもその中身に目を疑った

誰もいなかったのだ、他の者達も中身は蛻の殻

 

ピシ…

 

ひびの入るような音がした

ふと周りを見ると空間に張られた透明な壁が割れかかっていた

そしてそこには炎が迫っている

 

「これはまずいな」

倒れているキミドを背負い込む

空を見上げるとあの天使がこっちに下りて来ていた

 

「げげ…二人はちょっときついなあ」

二人を見るや否や天使は少し厳しそうな物言いをする

だがすぐ迫りくるリミットに選択の余地はなかった

 

 

壁は割れ炎が中に浸食してくる

 

彼らは間一髪で脱出していた

「お…重いよ~」

不安定に高度が上下する、天使がハットを抱きかかえ彼がキミドを抱きかかえる

火の海を越えるまでの辛抱だと何とか励ます

 

「はぁ…はぁ…」

何とか郊外に当たるところまで辿り着いた時には天使は地面に仰向けになり倒れる

ハットは礼を言うとキミドを背負い山の中に入って行く

 

ふと町の方を振り返る。あれほどの町を飲み込むほどの炎だった

だがそれも嘘のように消え。そこにはもう何も残っていなかった

 

あいつらが何をしたいのかなんて分かったもんじゃない

だがこれ以上の勝手はさせない…あいつとの約束だ

静かな山の中で彼は決意を固める

 

山を越え自宅に着く頃には夕日が眩しく照らしていた

家の前であの天使が退屈そうに座っていた。

「ふぁ…おかえり」

「ただいま」

ただそう挨拶をすると天使の横を通り過ぎドアを開け中に入る

 

キミドは目を開いてはいるが全く動く気配を感じさせない

仕方なくハットは彼女をベッドに寝かせる

 

「…ハット君、話しておきたいことがあるんだよね」

部屋から出ると横にもたれながら天使は少し目を開きながら話しかける

静かな廊下の中に夕日が差し込む。そして映し出された影は向かい合う

 

「なぁ天使…いやアンヘル

ハットはその天使の事を思い出していた

 

まだ彼が幼いころに面倒を見てくれた恩人

後の神器騒動の時にも彼を助けることになった

ハットの帽子の中身を知る数少ない人物である

そんなアンヘルの事もハットは天使であること以外は知らない

 

「ふふ、やっと思い出してくれた」

アンヘルはニッコリと笑う。そしてそのまま彼は語った

 

自身が神の命令でこの地上に来ていること

 

そしてその命令がハットの追っているローブの男

…というよりもその背景にある存在の調査

 

「…あの人は明日の朝また何かしてくるよ」

夕日は沈み月光が薄く差し込む

ハットはアンヘルを見つめる。彼の目には確固たる意志があった

 

「…ふふっ、分かっているさ」

そういうとアンヘルはドアを開け外に出る

ハットは彼についていく、外は恐ろしいほど静かだった

 

「彼女は置いてっていいのかい?」

「邪魔になるだけだぞ」

アンヘルはやれやれと呆れ、首を振る

 

翼を広げ空に飛び立とうとする

ふとハットの脳裏にある疑問が浮かび上がる

 

アンヘル、お前あの男の場所はわかっているのか?」

 

「まぁね♪あくまで私の仕事は調査だったからそこんところはばっちりだよ!」

元気な返答にあぁとハットはなんとなく納得してしまった

そして彼はハットを掴み夜空に飛び立つ

 

 その頃…

 

「う…頭が痛い」

キミドは軽い頭痛に頭を押さえながら起き上がる

 

「この感じ…頭に何か…いる」

違和感の原因である頭に彼女は指を突っ込む、それはより深く入り込み

やがて手が彼女の頭の中に隠れる

 

「…これね」

何かを掴みとそれを思いっきり引っ張る

ぶちぶちっと音を立ててキミドの頭の中からそれは引っ張り出される

 

「…」

大きな一つの目玉に触手の生えた生物が彼女の手には握られていた

それを彼女は冷たく見下す

 

それはもがくように触手をウネウネと動かしその大きな目で睨みつける

その態度を見たキミドは人差し指を立てゆっくりと近づける

 

「ま…待て、私が悪かった」

脳内に直接話しかけてくる、慌てて触手を動かす様子を見て彼女は指を離す

するとその生物は安心したのか触手が萎びたように下がる

 

「…私の頭の中で何をしようとしてたの?」

キミドはそう聞いたが一向に応える気配が無いので握っている力を強くする

するとその生物の血管が浮かび上がり、目玉が震える

もっと強くすると流石に参ったのか話す気になった

 

「私は…お前の脳内からお前の意識を支配し…そして…」

そして?とキミドは小刻みに震えるその生物に向かって興味津々に聞く

怯えながらもその生物は続けて言う

「…同士討ちさせろ…とだけ命令されている」

 

「ふーん…」

それを聞いたキミドは無表情になり、外を眺める

そしてニヤッと笑う、その生物を握る力は増していき、手は震える

 

「どうしてくれようかしらね~…」

苦しそうに瞬きをする生物を近くにあった籠にぶち込むと

彼女は勢いよく外に飛び出し、黒い翼を開き、空に飛び出した

 

その姿を見た瞳の生物はニヤついた

「計画は失敗したが…最低限の仕事はこなせそうだ」

 

 

 

続く