あるクリスマスの話 5

 

 

俺は小さく古いが懐かしい趣のある館の中に入って行った

 

 

中は閑散とし、そして何もなかった

 

長い事誰も手入れをしていないのか埃だらけで蜘蛛の巣まで張ってあった

だが何か魔力のようなものを感じた

 

部屋を一つ一つ見ていったがどれも中には空虚な空間があるだけだった

 

「…気のせいだったか」

最後の部屋を出て廊下で顎に手を当てながら考えていた

ふと廊下の行き止まりの壁を見た

 

「この壁…」

押しても叩いても無反応だったが逆に傷一つついていなかった

 

「怪しい…これは…」

俺は剣にミニ八卦炉をはめ込む

すると弱弱しいが光の刃が出現した

 

「はぁ!」

壁を思いっきり切り裂く

すると真っ二つに壁は切れ、バタンと音を立てて倒れた

それと同時にミニ八卦炉はボフンと小さく爆発して剣は元に戻ってしまった

 

「あちゃー…どう説明しようかこれ」

俺は外したミニ八卦炉を隠すように懐にしまった

 

倒れた壁の奥は暗くてよく分からなかった

手探りで中を進むと床が無い事に気が付いた

 

「うわあああああああ!!!!」

俺は下り階段で足を踏み外しそのまま転げ落ちた

 

しばらく転がっていると終わりが来たのか床が俺を受け止めてくれた

 

「イテテ…ここは?」

真っ暗闇で全く辺りが見えなかった

 

「…確か」

壁を伝いであるものを掴んだ

それに電気を流すと灯りがついた

 

手に持っていたのはコンセントのようなものだった

「俺はこの場所を知っているのか…?」

 

そこは倉庫のようなところであった

下には消えかかっている魔法陣もある

 

「…」

すぐそこに手帳のようなものがあったので手に取って読んでみた

 

1ページ目を見て俺は驚いた、自分の名前が書いてあったのだから

そして読み進めるとあることが分かった

 

これは俺の字だ

 

つまり俺が書いたってわけか?

…内容は軽い日記のようなものだった。それは緑野という少女との生活についてだった

 

「…ん?何か突っかかるな…」

俺はこの日記を書いた記憶が全くない、3日くらいの日記ならそれもわかるが

これはかなり長く続いていた

 

俺は…まさか

積み上げられていた荷物を漁ると、昔使っていた刀が出てきた

「…」

その近くに今度は別の本のようなものが出てきた

「どれどれ…」

俺は手に取り1ページめくってみた

こちらはさっき俺が読んでいたいた日記の緑野という人物の日記だった

 

 

しばらく読んでいるとさっき読んでいた日記と出来事がすべて一致していた

 

つまり俺の日記は嘘ではないという事か…

こちらには俺の日記の最後のページよりあとの日付の出来事も書かれていた

 

「…俺は、とんでもないことを忘れていたんだな…」

完全に思い出したわけではない

でも俺は記憶の奥底に封印していたものを呼び起こしていた

自然と涙が出てきた、数年来出したことは一度もなかった

 

「あいつとの約束も…ほっぽかしたままだな」

涙を拭い、何があっても絶対守ってやるという

それこそかなり前にした約束のことを俺は思い出した

 

「…今からでも遅くはない…のかな」

 

何をいまさら…って思われるかもしれない

あいつには新しい人がいるかもしれない。俺なんか邪魔かもしれない

でも陰からでもいいから守ってやりたい

 

俺は意を固めた

 

俺は日記を読み終え、地下室を出ようとした

 

「おわっ!?」

足に何かを引っかけそのままつまずいた

それを見ると少し小さな木箱だった

 

「何だ…これは」

あいつの置いてきたものがここにあるとしたらこれは一体

 

箱を開けるとミニ八卦炉のようなものがあった

八角形の全ての角は真っ白であった

 

薄らと昔魔理沙が言ってた気がする。

妹がミニ八卦炉を自作したんだけどよくそんなことが出来たなぁ…と

本当かどうかは曖昧なんだがな…

 

これがその妹の…緑野の八卦炉か

 

使っていいのだろうか。そう思いつつも俺は剣の穴に嵌め込んだ

 

すると少し薄黒い黄色の線が剣に廻る

 

こつ…こつ…

 

誰かが階段を下って来る音が聞こえた

俺は物陰に隠れ、何が来るのかを様子見した

 

俺が目にしたのはまたしても奴…大久保の姿だった

 

「これは奇遇だな霧雨、貴様もここに用か?」

「…ばれてるとは思わなかったな。俺は偶然行き着いただけだ、お前は何の用だ」

 

 

「ここに…いたはずなんだよなぁ…ふふ」

「…霧雨 緑野の事か?」

俺は半信半疑で答えを問いかけるように言った

 

「そう!そいつだよ!」

態度の急変に俺は驚いた、今までのが偽りの性格だったのか…

 

「あいつにはひどい目に遭わせられたからなぁ…!仕返ししないと気が済まねぇんだよぉ!」

「何されたんだよお前…」

この性格もその復讐心が生んだものなんだろうか…俺は気になった

 

「何故貴様に言う必要がある」

「まぁ一応関係者…だしな」

その言葉を聞いて奴の目の色が変わった

 

奴は天井に跳び移ると、こちらに急降下しながら切りかかってきた

 

「うおっ!?」

不意打ちに驚きながらも俺は剣で防ぐ

奴は着地してから壁から壁へ飛び移り俺の目を惑わしながら連続で切りかかってくる

 

「っち…」

防いではいるものの防ぎきれてはいなかった

身体のあちこちに浅い切り傷が付く

 

「ㇷフ…実にいいぞぉ!あいつの能力は」

あいつ…ハットの事か…!

俺はこちらに切りかかってきた奴の手を蹴り上げた

ナイフは弾かれ天井に刺さった

 

「雷迅砲脚!」

奴が怯んだその隙に素早い回し蹴りで壁まで吹き飛ばした

壁が崩れ、更に奥の部屋が姿を現す

奴を追いその部屋に跳び入る

 

そこはかなり広い部屋だった

対峙するように奴は奥にいた

 

「やはりこっちの方が俺の性に合ってるな」

奴はこの部屋全体に黒い結界のようなものを張った、あの時のドームと少し似ていた

「今度の結界はいくらお前の剣と言えど切れねぇぞ」

 

どうやら逃がすつもりはないらしい

 

奴は淡々と影を仕掛けてくる

俺は剣を展開させる、この時の刃は黒かった

変だな…今は戦闘に集中しなければ…俺は意識を集中させる

 

「はぁ!えぃ!とりゃああああ!」

影の動きは本物に比べると劣っており攻撃も簡単に避けれた

そして回避から次々と斬っていく

人里の時と違って影が切れてる感覚があった

 

それだけならあの時のように楽勝なのだが、今は違う

 

「ひゃっはーーー!」

狂ったかのように奴は俺を狙ってくる

影も連携が取れてきており、徐々に劣勢になって行った

 

「はぁ…はぁ…あいつ…どれだけの影を所持してんだよ…」

俺は数十もの影に囲まれていた

 

じりじりと詰め寄られ、次の瞬間

 

囲んでいた影の一つが他の影を殴り飛ばしていた

 

『!?』

俺もあいつもこの状況に驚いた

 

その影は他の影に魔弾のようなものを連射する

 

「…!あの影、俺は知らないぞ!」

奴は暴れている影を見て驚愕していた

 

「何だか知らないけど助かったぜ…!」

動かなくなった他の影を俺は切り捨てる

 

残りの影も少なくなってきた

あいつは焦りが隠せない顔をしていた

 

影の動きもかなり滅茶苦茶になっていた

ひょっとするとあの影たちはあいつが操っていた…?

そう思いながら最後の一体を斬り捨てた

 

あっちの方も片付いたようだ

あの影…一体何の、誰の影なんだろうか

魔理沙のような特徴的な帽子をかぶっていたがそれ以外は黒くてよくわからなかった

 

俺と影は隣合わさりになりあいつを見据えていた

 

 

「貴様ら…もう許さねぇからな」

周りの結界が奴に吸い込まれていく、隣にいた影も同様に

 

そして大久保は黒い…影の球体に包まれた

 

「…何もしてこないんだな」

様子を見ていたが特に何もしかけてくる様子はない

だが禍々しい力はひしひしと伝わってくる

 

だけど…ここでお前を倒す!

 

剣を構えながら奴に走り近づく

目の前まで来たとき何が起きたかわからなかったが俺は強く吹き飛ばされた

 

「イテテ…」

壁に身体を強くぶつけてしまったが

目の前の光景を目にしたら痛みも忘れてしまった

 

「ふふ…これが俺の…全力」

奴の声のトーンが一段階下がる

大翼を生やしその周りには無数の小さい球体がいくつもあり

その姿は禍々しくも神々しかった

 

「後悔するんだな霧雨、お前は…いやお前も最後の最後で勝ち筋を自らの手で消した」

奴はそういうと翼を展開する

何かを仕掛けてきそうな雰囲気に俺は剣を構える

 

翼から放たれた巨大な黒い光が剣もろとも俺を吹き飛ばした

俺は天井に剣を叩きつけ地面に着地をした

「ふふ…今の俺は正に無敵…」

 

「…やるしか…ないのか」

奴に近づこうとした瞬間俺は剣でガードするような形で後ろに飛ばされていた

 

「今のはいったい…」

俺は剣を握っている手を見るも理解が出来ていなかった

 

「ほう、まさか時間停止を破ってくるとはな」

驚く様子もなく次の攻撃を仕掛けてくる

時間停止をどうやって防いだのかは俺もよくわかんないが

次々に繰り出される奴の攻撃は防ぐことさえも際どかった

 

「ふふ…動きがぬるいぞ、霧雨」

奴が翼を広げた

次の瞬間俺の足をあいつの翼から放たれた羽が貫通した

俺は痛みで蹲りそうになるがそれすらも出来なかった、動かなかったのだ

 

「ふふ…ふはハハハ…あーっはっはっはっは…こういう時に助けてくれる味方がいないってのは辛いよなぁ?…霧雨雷人ぉ!」

 

奴は周りに浮かんでいる球体の一つを自身の前まで移動させた

するとそれは黒い刀となった

 

奴はそれを握り俺の前で歩みを止める、そして振りかぶった

勝利を確信した目をしていた

 

「いや…いるさ、味方は…仲間は」

俺は剣の内にいる者と物の魂に賭けた

 

そして刀は振り下ろされる

 

 

「な…貴様は!?」

目の前に現れた真っ黒な服装の女性が刀で奴の攻撃を受け止めていた

そのまま押し合いに勝つとすぐに俺の影に刺さっていた羽を引きちぎる

 

「あんたの刀、少し借りるわよ」

握られている刀をよく見ると先ほどまで倉庫にあった俺のお古の神器だ

確かもう神の加護は残っていないはずだが…

 

チャッキっと刀は音を立てる

 

「どこまでも…邪魔しやがってぇぇぇ!!」

逆鱗に触れたのか奴は突然現れた存在にのみ攻撃している

 

だがそいつはものともせず軽々と避けている

そしてこっちにアイコンタクトを送る、よく見るとその顔には因縁があった

 

「キミド!」

かつての仲間であったそいつに俺は呼びかける

 

「何?結構ギリギリなんだから早く片、つけなさい!」

どうやら間違ってはいなかったようだ

 

俺は歯を食いしばり立ち上がる

それを見るとあいつは振り返り大久保を切り裂く

 

「おぉ…ぐっ…」

奴は地面にひざを付ける

が、すぐに傷が塞がり始める

 

「こいつを倒せるのはそれしかないわ!」

俺の持つ剣を刀で指し示す

よく見ると無色だった八角の頂角に≪影≫という文字が刻まれていた 

 

「はぁ…くっ」

それが何を指すか、俺にはよくわからないけど

やるしかないようだ

 

俺は歯を食いしばりながら剣を叩きつける反動で思いっきりジャンプした

 

「はぁ…はぁ…返り討ちにしてやる…」

傷が塞がり立ち上がる、そして球体のうちの一つから何かを放った

俺はそれを切り落す

 

「そんな馬鹿な…時止め自体を斬った…だと…」

そのまま回転を付けてあいつを切り下ろそうとする

 

「…!?何故だ…何故…動かん」

 

奴はピクリとも動かなかった

「な…なんでだ…その文字は…」

奴は最後にこちらを怯えた目で見据えていた

 

「いっけぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

 

奴を

一刀両断する

 

「ぐっ…ち…力が…抜けて…俺の…今までの全てが…力が…ぁぁぁぁ…」

奴の傷口から影が地面に零れ落ちていく

その傷が塞がる様子はなさそうだった

その量の多さから奴がいかにどれほどの者の影抜き取っていたかは一目瞭然だ

 

「とうとう…ツケが回ってきたようだな大久保、そこで今までの行いを悔いるがいい」

俺は振り向き剣を杖代わりにしながら片方の足の力でゆっくり立ち去ろうとする

 

「ふ…ふふふ、ふざけるな!」

もう片方の足に激痛が走る

 

そこを見ると奴が放ったであろうナイフが刺さっている

たまらず俺は倒れこんだ

 

「狙いは…外れたが貴様も道ずれだぞ霧雨ェ!」

奴は俺の影を狙っていたのであろうか…だがもう立てそうにない

 

天井から土が落ちてくる

戦いの影響か、この地下室自体が崩れ始めたようだ

 

「こ、こんなところで…」

俺は誰かに掴まれたような感触を感じ意識を落とした

 

 

 

 

ふと気が付くと俺は丘の上に居た

下を見下ろすと雲で覆われている

 

「…俺は死んだのか?」

それともあの時のような夢なのか、今の俺には区別がつかない

足の痛みもなかった

自身に問いかけるように空を見ながら呟いた

だがこの疑問に答える人物がいた

 

「お前はまだ死んでいないよ、雷人」

俺は声がする方を振り向いた

そこにいたのは俺の記憶にある緑野だった

 

「つまり…俺はまたあの時のような夢を見ていると…」

「そういうこと、早いところ覚めた方がいいよ?」

この前の夢の時とは違い彼女は優しかった

 

「でも…もう少しここに居たい…かな」

俺は夢の中でもいいから彼女と一緒に居たかった

だが…

 

「仕方ない」

夢の緑野がじりじりと近づいてくる。嫌な予感がいた

俺は少し後ろに下がるとそこにはさっき見下ろした光景が広がっている

 

「そういうのは…現世で私にあってからな?ここで死んじゃったら困るから」

ドンっと押され俺は空に放り出される

落ちている俺にあいつは手を振っていた

 

「…っは!?」

その瞬間に目が覚めた

薄暗い部屋に俺は寝ていた。足には包帯が巻いてあり

動こうとすると体に激痛を走る

 

周りをよく見ると昔使っていた俺の部屋だった

 

 

 

もう少し続く