あるクリスマスの話

ある雪降る日の出来事 

 

「あれからもう何年経つのだろうか」

 

俺こと霧雨雷人は曇り空を見上げながら呟いた

影、神器…そんな異変を解決したのも大分前になる話だ

最近は幻想郷を離れてもともとの世界で暮らしている

 

「おーい、雷人ー?」

 

呼びかける声の方を向くと友人のハット(偽名)が居た、今では数少ない友人である

 

「何か用かハット?」

「今日が何の日か知っているか?クリスマスだよクリスマス」

「へぇ、それが一体どうしたというんだ」

ハットは予定があるかと聞いてきたが俺には特にそんなものは無かったのでないと答えた

 

「なら丁度いい、これから予定がない暇人の闇鍋があるから来いよ!」

「…まぁいいか」

数年前なら俺も暇じゃなかったんだがな、と思いつつも俺は暇人の集まりに出向くことにした

 

 

 

夜、そこらへんで採った茸を持ち合わせて指定された場所に出向いた

そこはハットの家だった、まぁそりゃそうかと思いつつ俺は中に入った

 

中は真っ暗であったが鍋の煮える音と変な匂いだけは感じ取れた

 

「おぉ雷人、遅いぞ~もう先に始めちゃったよ」

ハットの声がする方に手探りで向かい、座布団っぽい感覚があったのでそこに座った

 

「俺とお前以外に人はいるのか?」

「いるぞ」

明かりがつくとハットと俺の他にもう一人眼鏡をかけた黒髪短髪の女性が居た

 

「駄目じゃないですか博士、電気をつけちゃ闇鍋の面白みが…」

「いや、君の長い付き合いの友人の顔が気になってな…ふむふむ…」

ハットが話し込もうとしたのをその博士…と呼ばれてる女性が割り込んだ

 

「青色の髪の毛…なかなか珍しいな…瞳の色も」

「あっちでは割と髪の色なんて何でもありだったから気にしたことはなかったな」

「そうなのか?…確かにk」

「はいはい!観察はあとでいいから鍋やろうぜ!」

今度はハットが会話に割り込んだ、確かにお腹が空いていたなと俺は思いつつ鍋の中身を覗いた

 

そこには肉と豆腐しか入ってなかった

 

「本当ならもっと甘いもの入れたかったんだがな、博士がどうしてもって言うから普通の具を入れたんだよ」

「なっ!?…ぶどうなんて鍋に入れる方がおかしいってそれ一番言われてるから」

「は?」

この後しばらく二人のくだらない言い争いが続いたんだぜ

 

 

 

その後一年間何をしていたかなんかも話し合い、酒も呑みながら鍋を食べすすめていった

 

「ところで君は今まで恋愛経験とかあったりしたのか?」

 

突然博士が話を切り出してきた

 

「え?…んー…なんでいきなりそんなことを聞くんだ?」

俺は突然の質問に驚きながらも濁して返した

 

「いやね、そんなに顔立ちも悪くないしこんな集まりだしなんとなく茶化してやろうと思ってな」

 

無くはない、があまり答えたくもないし適当にごまかしておくか

「無いことはないが、そんな語りたいことでもねぇぜ」

寝転がりながら俺は答えた、実際そうであった

 

昔、確かに俺には恋人はいたが喧嘩別れしてしまった

だがこれが本当なのかどうか実は俺はよく覚えていない、記憶が曖昧なのだ

別れる際に記憶を消されたのかも知れないし自分で消したかもしれない、別のパターンで付き合っていた記憶を付け足したかも知れない

もし恋人が実際にいたなら申し訳ないとも思うが…だが…

 

気が付くと俺は魔法の森の開けた場所にいた

「…?俺は幻想郷にすらいなかったはずだが」

不可解な現象に夢だと思い、せっかくなので先に進むことにした

 

辺りに生命の気配はおろか何も感じ取れなかった

 

 

だがそれは急に襲ってきた

背後から弾幕を受けてうつむいた

「誰だ!出てこい!」

 

そう叫ぶと前方から魔理沙とところどころ似ている女性が現れた

顔を確認しようとしたが黒いもやもやでうまく確認が出来なかった

 

「誰だなんて酷い、私のことを忘れたのか?」

「あぁ!」

悲劇的に問いかけてきた彼女に対して俺は即答した

 

「ひどいなぁ…あんなにも愛し合っていたのに…」

 

「?」

もしかしてこいつが、この女性が俺の昔付き合っていた人なのか!?

じゃあここは一体…

 

「ここは夢だぜ」

 

こちらの心を読んでいたかのよう、彼女は答えるように言った

だがそれがわかれば醒めてしまえばいいわけだぜ

俺は自分を殴った、これで醒めるはずだ

 

 

だが何も起きなかった

 

「ここは夢の中の一番深いところ、そう簡単には目覚めさせないわ」

彼女がこちらに向かって箒に乗り猛スピードで向かって来た

 

あの感じ何か突撃系の攻撃を仕掛けてくる、だったら当たる直前で居合を決めてやる

「やるしかないか…!…ってあれ?」

そう思いながら刀に手を伸ばすが刀がなかった

呆気にとられたその瞬間、俺は吹き飛ばされていた

 

 

「さぁそろそろ終わりよ…」

タニタと笑いながら追いかけてくる、まるで悪魔だ

あれから能力もなぜか使えず回避で精一杯であったがとうとう体力もそこを尽きてきた

無我夢中で逃げてきたが気が付くと後ろには何も空間がなかった

…よくよく考えたら夢の中で死んでも目が覚めるだけなんじゃ

 

「それは甘い考えよ?」

「そうだろうとは思ってたがやっぱそうだったとは…」

俺は腹を括った

せめて刀があれば…俺は強く悔やんだ

 

「刀ってこれのこと?」

彼女は手に俺が以前使っていた刀を握っていた

そしてその刃は俺に向けられていた

 

「なぁ…最後に教えてくれ、なんでこんなことしたのかとお前は誰なのかを」

 

「いいだろう、冥土の土産に教えてやろう」

「いやあの人ならこうは言わないよね…うーん」

彼女はなんか一人で悩んでいた、そして質問に答えだした

 

「私は…お前の記憶だ。お前が忘れさせていたな」

「そして何故こんなことしたかって?この記憶がお前を許せなかったから…って感じ」

彼女はそうは言っていたが言葉にはどこか迷いが感じられた

 

「そうか…確かに冥土への土産にはなったぜ…」

俺は死を悟り、目をつむった

 

「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

刀で刺されたと思った瞬間俺は起き上がった、そして頭を机にぶつけた

 

「ここは…」

辺りを見渡すと鍋会をしていた部屋だった、周りは片づけられていてハットが眠っている

閉まっているカーテンから光が若干差し込んできていた

俺はカーテンを開くとまぶしいほどの朝日が部屋に入ってきた

 

「う…う~ん?…」

ハットが寝ぼけながら起きた、そして俺が起きているのを確認すると心配そうに駆け寄ってきた

「雷人生きていたのか!てっきり寝たかと思わせて死んでたと思ったよ!」

「んなわけあるか!」

あながちそうなってたかも知れないけど俺は否定しておいた、そして夢の出来事を話した

 

 「へー、それは大変だったな」

「あぁ…だがなぜか生きてるんだよな」

「ただのハッタリだったんじゃないのか?」

確かにそうだったかも知れないが、そんなハッタリついて何になるんだろうか…

そう考えていたら

ピンポーンとインターホンが鳴った

 

「ふいふーい」

ハットが対応をしに行きすぐに戻ってきた

包装された長方形の段ボールを持って

 

「ふむ…俺宛か」

俺は同封されていた手紙を開けてみた

以下はその内容である

 

 

 

『メぇぇぇ~~リぃぃぃぃぃクリっスマぁぁぁーースぅ!!霧雨ぇぇぇっ雷人ぉぉぉ!

 

相変わらず寂しそうだから私からのクリスマスプレゼントだよ!

これを握ってまた冒険にでも出てみたらどうかな?

                           どっかの神      』

 

 

「相変わらずだな…あいつ」

ハットが呆れながら言った、だが段ボール箱の中身は気になったらしく早く開けようと急かしてきた

 

「見たところ普通の段ボールだな…」

包装を破り捨てて現れたのは普通の段ボール箱だった

持ち上げて振ってみるとがこっがこっと中に入ってるものが揺れる音が聞こえてきた

 

「じゃ、開けるぜ…」

 

開けようとすると強烈な光が漏れだした

俺らはたまらず目をつぶった、そして光が漏れるのがやむと目を開き中を覗き込んだ

 

そこには奇妙な形の、八角形の穴が開いた剣のようなものがあった

 

 

つづく