あるクリスマスの話 6

 

随分と長い時間を眠っていたようだ

 

「雷人!」

ハットが俺が起きたことに気が付くと俺の使っているベッドに駆け寄ってきた

 

「あー…どれくらい寝てた?俺は」

「一週間だよ!一週間!心配したんだぞもう…」

 

俺は自分のことよりもハットの方が心配になった

「お前こそ…死んだと思ったぞ」

傷一つたりともついていないが俺はあの時のことを覚えていた

 

「あぁ…あの時は影を抜かれてしまってな…でも今はもう大丈夫だ!」

胸をポンポンと叩いていた、あいつの足元を見るときちんと影があった

 

「他に影を奪われていた人と奴はどうなった?」

「それは…あいつに説明してもらった方が早いんじゃないかな」

ハットが邪険そうにうつむきドアにもたれかかっている豊満な胸をした全体的に真っ黒な服装をした女性を指さす

 

「そんな態度取らなくてもいいんじゃないの?二人とも」

「…まぁ助けられたわけだしな」

こいつの名前はキミド、自立した影らしい

昔いろいろあって以来こいつは嫌いだ

 

「そうそう♪これは貸にはしないから安心してね♪」

そうは言ってるがあの時の刀をちゃっかりと自分の物のようにしていた

 

「…まぁいいか」

昔敵対していた奴に助けられるとは思っていなかったけど

まぁ助けられたなら仕方ないと思いつつ腑に落ちない

 

「まず一つ目の事だけど…大体の人の影は戻ってきてないわ」

「えぇ!?…あいつは倒したはずだが」

 

俺がいつにもなく驚くとあいつは俺が持っていた神剣を指差す

あの時の影の文字は消えることなく残っていた

 

「これが何を意味するかはっきりとは分からないのだけれど…」

あいつが言い出す前に俺が割り込む

「影を斬る力…」

「そうそれ」

 

彼女は俺らの間に来て説明をし始める

「本来影というのは本体から生まれる虚像、斬れるはずもないしそんなことあれば本体もただでいられるはずないわ」

「なるほど…つまりそれを斬ったから…」

ハットが神妙な顔で下を見る

 

「いや、ハットの考察は微妙に違うわ」

どういう事かよくわからないがさっきまでの話なら俺は影を斬った、つまり本体である元の人も同じように切れてるんじゃないだろうか

 

「あいつ…大久保マサキって名前だったわよね?」

「あぁ」

俺はそっけなく返事をした

 

「あいつの能力が少し関わってくるのよ」

続けて彼女は説明し始める

 

「影を操る能力…それがそいつの能力よ」

 

「そいつは大きく出たもんだ。影を操るか…」

 ハットが腕を組み頷く

 

「ただどこからでもってわけじゃなく影に仕込む必要があるけどね」

「あのナイフとか羽根とかか…」

俺は大体理解できた

 

「あいつは影を切り取っていた、その時点で一時的に本体と影との関係は断たれるのよ」

 

「ん?…どういう事だ?」

俺らは言っていることは理解できたがそれがどう繋がるのかはよくわからなかった

 

「あなたに斬られた影は本体の所に戻る前に斬られた部分の再生をしているのよ」

彼女は一つの影を取り出す、それはあの時斬った影のうちの一つだった

真っ二つだったのがかろうじてくっついている状態だった

 

ふと疑問に思ったことがあった

 

「じゃあなんでもう意識が戻った人がいるんだ?特にお前」

俺はハットの方を指さす

 

「一つ目、あんたが人里で斬ったやつらは影自体を斬られたわけじゃないからすぐ回復したわ」

だからあの時の感覚は妙だったのか…

「でも影以外の何を斬ったんだ?」

腕を組みながら俺は考えた

はぁとため息をつきながら彼女はあるものを取り出す

 

それはただの人形だった

 

それに彼女は糸を一本の糸を通す

 

「何してるんだ?」

「まぁ黙ってなさい」

どうやらかなり集中しているらしい、ハットの方を見向きもしなかった

 

「ふぅ…こんな感じかしら」

人形が動き出しハットを殴った

面喰ってハットは後ろに倒れこむ

 

「どうやったんだよそれ…」

ハットは起き上がると人形を鷲掴みにする、人形には一本の糸がつながってるだけだ

キミドがその糸を切ると人形はまた動かなくなった

 

「魔法の糸を伝って動けという指令を出してみたのよ」

かなり疲れたらしく俺の使っているベッドに腰を掛けた

「あいつの能力もこんな感じよ、多分」

 

あの時の剣には魔を絶つ力があったとか言ってたよな…つまりそういう事か

影は元々はっきりとした意志は持たない、そんな言葉を以前こいつから聞いたがそういう事になるのか

 

「因みになんでハットの意識が戻ったのかは知らないわ」

「えぇ…」

あれだけわかっているように説明しておいて最後には知らないときた

 

 

「ところで二つ目の質問の答えはどうなんだ?」

リンゴを剥きながらハットが思い出したかのように質問する

 

「まさしく影も形もなかったわ」

 

「…死んだのか?」

死んでも遺体がないのはおかしい話だがあいつの最期を見る限り生きていたとは思えなかった

 

「あれから気絶したあんたをここまで運んでたりしたんだけど」

「再びあそこに戻った時には大久保の血痕以外何も…」

 

あそこはもう崩れていて普通なら入ることすら困難だったらしい

そんな中逃げることは可能だっただろうか…力を失ったあいつに

 

「仲間…が居たとか?」

「あははははは、それは絶対ないわ~~~」

ハットが大笑いする、確かに薄々そうは思ってたけど

 

「…」

彼女は笑い声の中うつむきながら深く考えていた

それに気づき笑うのを止めるハットに彼女もはっと顔を上げる

そして笑ってごまかした

 

それからは他愛もない雑談が続いた

 

「じゃあそろそろ帰るわね、お大事に」

そういうと彼女は地面に潜るように消えていった

 

 

それから長い年月が流れた

俺の怪我も何とか完治し、リハビリに励んでいた

その時にはもう影の無い住人はいなかった

 

 

「ふぅ…もうそろそろ大丈夫なんじゃないのか?」

リハビリの一貫でハットと模擬戦をしていた

衰えた力も確かにあの時くらいまでは戻ってきた感覚がある

 

「確かに…そろそろいい頃合いかもしれないな」

俺は旅に出ようと考えていた

あいつを探す旅に

 

「とりあえず今日はゆっくり休んだほうがいいぜ」

退屈そうに見ていた魔理沙が魔法店の中に入って行った

 

「確かにそうだな。そう急ぐ必要もないだろうな」

俺も魔法店の中に入る

 

それから最後の夜を過ごして眠りにつこうとした

その時部屋の扉を誰かが開けた、俺は眼を開け誰かを確認する

それは魔理沙だった

 

「なぁ雷人、お前旅に出るんだったよな」

「…あぁ。しばらくは戻らないつもりだ」

この旅はなんとなく長引くした気がした

ひょっとしたら帰ってこないかもしれない

 

「そっか、まぁ頑張れよ」

俺は静かに頷く

特に旅の目的を聞いてくることはなかった

そして彼女は新しい服を枕元に置いた

 

「この服は?」

「実はな、私がお前を初めて見つけたときにお前が着てたものなんだ」

白いパーカーに黒いズボン、あまり見ない格好だ

 

「旅に出るんでしょ、せめてもの餞別だぜ」

「あぁ…ありがとうな魔理沙

服を手に取る、なんだかただの服のような感じはしなかった

 

「じゃあ、お休みな」

「おやすみ…」

静かに彼女は部屋を出た

俺は暗闇の中目を閉じた

 

まだ朝が開けてない頃に目が覚めるととりあえず俺はその服に着替える

パーカーのチャックを絞めると自然と気が引き締まった

 

身支度をしてこっそりと魔法店を後にする

 

 

 

日が昇ったころハットは魔法店を訪れていた

最後のあいさつをしようとしていたらしい

 

「はぁ!?朝起きた時にはもういなかった?」

魔理沙が一つの紙キレのようなものを彼に渡した

 

そっちの世界はお前に任せたぜ ハット

 

「あいつ…勝手なこと言いやがって!」

彼は急いで彼を追いかけようとした。どこに向かったのかはもちろん知るはずはない

玄関を開けようとしたときボスンと人にぶつかった

 

「いつつ…って雷人!?」

そこには雷人本人が立っていた

雷人もハットも互いに驚いていた

 

「全く…何もなしに行くことないじゃないか」

「そうだぜ」

「すまん…お前らを見てると旅に出るのが辛くなってな…」

 

テーブルを2,1人で対面するような形で座っていた

雷人はうつむきながら白状する

 

「…そんな理由だったのか」

ハットと魔理沙は互いに見合い笑った

 

「俺らはいつでもどこでも心は一緒だぜ?」

「ハット、流石に青臭いぜ」

そういうと魔理沙はパッと雷人に何かを投げた

彼はそれを掴み手の内を見るとそれはお守りだった

 

「交通安全のお守りだぜ、それを私だと思えば少しは…楽になるんじゃないか?」

 

「ん~…じゃあこれを俺だと思ってくれ」

そういうとハットは胸ポケットからサングラスを取り出した

一度も掛けた姿は見たことがないが雷人にとってはこの上ないほどだった

 

「もう大丈夫そうだな」

雷人の目つきを見てハットは肩を叩く

「お前こそ、こっちの世界は任せたぜ」

笑いながら彼は魔法店を後にした

 

「あっそうだ、返すぜ魔理沙。そしてごめんな~」

雷人は壊れたミニ八卦炉を投げて返した

 

「ごめんって…あ!」

受け取ったミニ八卦炉が壊れていることを理解するも

既にいなくなっていた彼を見てため息をつくことしかできなかった

 

 

 

 

「さて…どうしたものか」

彼は見晴らしの良い崖に来ていた

緑野を探すと言ってもどうやって世界を越えようかと悩んでいた

その時彼が持つ剣が話しかけてきた

 

『困っているようだな、ここは我の出番であろう』

剣がそういうと不思議な光に包まれる

 

そして勝手に剣が空間を切り裂き不思議なスキマが出来る

 

「…何だコレ?」

怪しみながらそれをツンツンと彼は触る

 

『汝の探し人の波長と限りなく近い奴のいる世界への道を一つだけこじ開けた』

「はぇー…」

もはや神の業にまで達しているそれを見て驚くことさえも彼は忘れていた

 

「というか同じやつはいなかったのか?」

『実は…本人の波長が不安定故完璧な特定が出来ぬ』

確かにあいつの事だからそうかもしれないなと彼は納得する

 

『時間がない、塞がる前に早く行け』

その隙間は確かに少しずつ塞がっている

 

「まぁちょっと待て」

彼は後ろに広がる景色を、そして空を見上げた

空は雲一つもない晴天であった

 

「じゃあな、皆」

かなり狭くなっていた隙間に彼は急いで飛び込んだ

 

これから先、何が起こるかは誰にもわからない

だが何が起ころうがあいつは絶対に守るという彼の想いは揺らぐことはない

それだけであった

 

こうして彼、霧雨雷人の長い旅は、人探しは始まったのである

 

 

 

 おわり